タイでの不当解雇訴訟の取り扱い-雇用主のリスク最小化とクレーム管理に関する実務ガイダンス

タイでの不当解雇訴訟の取り扱い

タイは一般的に「訴訟大国」として知られていませんが、労働関連の紛争となると話は別です。

タイ司法当局が実施した年次統計報告書によると、過去5年間で労働訴訟は年間1万件以上発生しています。

タイの雇用主が直面する最も一般的な問題の一つは、労働者による不当解雇の訴訟提起です。タイは「労働者が有利」として知られており、労働保護法は労働者を保護しています。正当な理由なく労働者を解雇することは(文化的にも)裁判所から一般的に嫌われています。そのため、不当解雇を主張するケースは珍しくなく、外資系企業や現地の雇用主にとって、金銭面や人材面で大きな問題となることが現実です。

本ニュースレターでは、タイにおける不当解雇をめぐる一般的な法的原則、労働者から提起される不当解雇に関する一般的なクレーム、訴訟のリスクを最小限に抑えるために雇用主ができること、訴訟が発生した場合に雇用主がどのように対処すればよいかを取り上げます。

不当解雇に関する一般的な法的原則

一般的に、タイの労働者保護法B.E. 2541 (1998) (LPA)に基づき、LPA 第 119 条に記載されている特定のカテゴリーの「正当な理

由」による解雇でない限り、雇用主は労働者の解雇時に解雇補償金を支払わなければなりません。

雇用主は、ごく限られた状況においては解雇補償金を支払う必要はありません。例えば、労働者が不正行為、犯罪行為、故意または過失により雇用に損害を与えた場合、就業規則違反、正当な理由なく義務を怠った場合、禁固刑により解雇された場合などが上げられます。[1]

従って、労働者が「正当な理由なく」解雇された場合は、解雇補償金やその他の法定給付を労働者に支払う必要があります。

解雇補償金額は、従業員の最終賃金額と勤続年数によって計算されます。[2]

雇用者との勤続年数解雇補償金額
120日~1年未満退職時の賃金の30日分
1年~3年退職時の賃金の90日分
3年~6年退職時の賃金の180日分
6年~10年退職時の賃金の240日分
10年~20年退職時の賃金の300日分
20年以上退職時の賃金の400日分

解雇補償金以外に支払わなければならない法定支払金のリストについては、弊所のタイにおける雇用終了に関するこちらの記事をご参照ください。

解雇が「正当な理由なく」行われ、雇用主が労働者に法定支払額をすべて支払った場合でも、不満がある労働者がタイの裁判所に「不当解雇」の訴えを起こす可能性があります。 何が「不当」であるかについての明確な定義はなく、タイの裁判所は、労働者を解雇する合理的な理由があったかどうかをケースバイケースで判断しますが、通常は雇用主の立場よりも、労働者の立場から判断することがあります。[1]  従って、不当解雇の可能性を最小限にするため、タイで労働者の解雇を検討する段階から、雇用主はタイの弁護士に相談することをお勧めします。

不当解雇する一般的なクレーム

当社の経験や判例に基づくと、不当解雇の主な原因は大まかに以下のカテゴリーに分類されます:

    1. 雇用主が管理職の特定の労働者に対して差別または迫害し、その結果その労働者が解雇された場合。
    2. 解雇には正当な理由がなく、労働者への通知も不十分であった場合。
    3. 業績基準を満たしていなかった労働者に対して、雇用主は正式な警告を発せず、労働者に研修や改善の機会も提供しなかった場合。
    4. 解雇は労働者のミスによるものだが、深刻で重大なミスではなかった場合。[2]
    5. 解雇は、労働者の些細なミスや軽微な規律違反が原因。書面による警告を受けなかった場合。[3]
    6. 解雇は利益の損失によるものだったが、雇用主は元本に重大な損失を被っていなかった場合。[4]
    7. 事業がまだ黒字であり、大きな損失に直面していないにもかかわらず、解雇は雇用主自身の理由(人員削減/事業再編または事業譲渡など)によるものであった場合。[5]
    8. 労働者は辞職を強要されたり、退職願または相互離職同意書に署名させられたりする場合。

不当解雇訴訟のリスクを最小限えるために雇用主ができること

実際、雇用主が労働者を解雇したいと考える最も一般的な理由は、労働者の業績不振や他の労働者との協調性の欠如が原因です。

このような状況において、労働者を解雇し、不当解雇訴訟のリスクを最小限に抑える最も効果的な方法は次のとおりです。

    1. 従業員が解雇される際に「驚き」とならないように、従業員の業績について十分な通知を行います。通知には、従業員の業績や行動の詳細と例、業績改善計画(PIP)が含まれるべきです。これらは、口頭および書面で従業員に伝える必要があります。
    2. 労働者の業績が改善しない場合は、解雇予告通知書を作成し、解雇理由を解雇通知書に記載します。可能であれば、労働者に自主退職を勧めます(但し、強制はしない)。
    3. すべての法定支払いおよび契約上の権利が労働者に支払われることを確認します。
    4. 可能であれば、労働者と秘密保持条項と請求権の放棄を含む相互退職契約(多くの場合、追加の「好意による支払い」)を締結します。

さらに、解雇理由が次のいずれかに該当する場合、雇用主は以下の要素を念頭に置く必要があります。

解雇が企業の人員削減/組織再編による場合

    • 雇用主は、初めに企業が財政難により再編成/リストラを必要としており、解雇が必要であることを示す証拠の保有が必要です。次に、労働者と解雇する際の選考プロセスが公正であったことの証明も必要です。最後にその行動が企業の財政状況に合致していたことを保証する必要があります。

例えば、ある雇用主が事業の不振を理由に一部の従業員を解雇したが、解雇           時に全従業員を同じ扱いとし、補充を行わなかった場合、裁判所は解雇を公           正なものとみなした。[6]その後、雇用主が他の従業員を補充雇用したとして        も、解雇と再雇用の間に十分な期間があれば、従業員の解雇は公正であると          みなされます。[7]

    • 解雇が人員整理/組織再編/機械や技術の改善や変更による 組織再編の場合、雇用主は解雇日の60日前までに、解雇日、解雇理由、影響を受ける労働者の氏名を労働監督官と労働者に通知する必要があります。雇用主は解雇補償金を支払う義務があり、雇用主が労働者に事前に通知しなかった場合、または通知期間が規定より短い場合、雇用主は従業員の60日分の最終の賃金に相当する「事前通知に代わる特別退職金」も支払わなければなりません。[8] また、労働者が6年以上継続して勤務していた場合、雇用主は解雇補償金に加え、勤続年数1年につき退職時の賃金15日分を「特別解雇補償金」として支払う必要があります。[9]

オフィスまたは職場の移転による解雇の場合

    • 雇用主は、移転の少なくとも30日前までに、影響を受ける労働者の氏名や移転先の住所、移転日などの詳細を、労働者に通知しやすい職場で告知しなければなりません。移転が労働者の通常の生活環境に大きな影響を及ぼし、労働者が移転先での就労を希望しない場合は、告知後30日以内に雇用主に通知する必要があります。このような場合、雇用主は「特別解雇補償金」を労働者に対して支払う義務があります。[10]

事業譲渡があった場合

    • 譲渡者/雇用主は、労働者が譲渡先/新雇用主に自動的に譲渡されるわけではないことを念頭に置かなければなりません。従って、雇用主は労働者から同意を得ていることを確認する必要があり、また譲渡先は、労働者に同じ権利と雇用条件を提供し続ける必要があります。労働者が譲渡先/新雇用主への譲渡に反対する場合、譲渡先は労働者との新たな契約締結を検討するか、法定支払いと契約上の権利をすべて付与した状態で労働者を解雇することを検討する必要があります。

不当解雇訴訟発生した場合雇用主対処

上記にかかわらず、労働者が不当解雇の訴訟提起をした場合、雇用主は以下の措置を検討する必要があります。

    1. 第一回期日を記録し、労働訴訟を専門とし、タイの裁判所手続きに精通した現地の弁護士に依頼してください。答弁書の提出に期間延長を要求する必要があるかどうかを検討します。
    2. 雇用主は、解雇の理由(労働者の業績や素行不良、企業の財務状況、公正な選考プロセスなど)の証拠と、労働者の主張に反論する根拠を検討し、証拠を収集する必要があります。
    3. 労働者の請求が成功した場合にタイの裁判所が労働者に与える可能性のある補償額を考慮して、労働者との交渉および和解の余地があるかどうかを検討します。タイの裁判所は通常、第一回期日で(プロセス全体を通じて)当事者に交渉して和解することを勧めます。
    4. 和解が成立した場合は、和解契約書を必ず作成し、守秘義務や追加請求の放棄などの条項を盛り込みます。

結論

タイでは不当解雇の訴訟は、かなり一般的ですがリスクを回避または最小限に抑える方法がいくつかあります。タイの雇用主はLPAに基づく要件を認識し、 労働者を解雇する際に不必要なリスクを避けるための措置を講じる必要があります。不当解雇の訴訟提起があった場合、そのような訴訟の負担を軽減し、企業の時間とコストを節約するために、雇用主がそのプロセスをコントロールできる実用的な方法もあります。

タイにおける解雇の詳細については、著者までお問い合わせください。

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[1]最高裁判所決定  第1256-1259/2549号、第5509-5510/2550号、第4505-4506/2557号

[2]最高裁判所決定第16805/2555号

[3] 最高裁判所決定第1864/2526号

[4] 最高裁判決7083/2548号、933/2546号、1256-1259/2549号

[5] 最高裁判決第6099/2556号

[6] 最高裁判決第4753-4760/2003号

[7] 最高裁判決第10659-10665/2003号

[8]LPA121条

[9] 特別解雇補償金の総額は最大 360 日分までと上限が設けられています。勤続年数が 1 年に満たない場合は、180 日を超えれば、 1 年として計算されます。

[10] LPA120条

[1] LPA第119条

[2] LPA第118条